今回はコーエン兄弟監督作の映画「ファーゴ」です。
雪に包まれたミネソタ州で起きた一連の事件を三者の視点から描いたサスペンス映画です。
コーエン兄弟の作品の中でも人気な本作をレビューしていき、見どころなど紹介していきたいと思います。
また、後半には映画「ファーゴ」をより深く楽しむために解説考察をしていきたいと思います。
映画の結末やナンバープレートのジョークの意味など解説考察をしていきます。
ファーゴ(1996年)
1996年製作/98分/G/アメリカ
原題:Fargo
配給:アスミック、シネセゾン
あらすじ
厚い雪に覆われるミネソタ州ファーゴ。多額の借金を抱える自動車ディーラーのジェリーは、妻ジーンを偽装誘拐して彼女の裕福な父親から身代金をだまし取ろうと企てる。ところが誘拐を請け負った2人の男が警官と目撃者を射殺してしまい、事件は思わぬ方向へ発展していく。
ファーゴ : 作品情報 – 映画.com
スタッフ・キャスト
監督:ジョエル・コーエン
製作:イーサン・コーエン
製作総指揮:ティム・ビーバン
エリック・フェルナー
脚本:ジョエル・コーエン
イーサン・コーエン
撮影:ロジャー・ディーキンス
出演:フランシス・マクドーマンド
ウィリアム・H・メイシー
スティーヴ・ブシェミ
ピーター・ストーメア
クリステン・ルドルード
ハーヴ・プレスネル
ジョン・キャロル・リンチ
ファーゴ レビュー
コーエン兄弟といえば「ノーカントリー」の印象が強く、ブラックユーモアやクライムサスペンスが得意な監督のように思います。
それで言うと本作はコーエン兄弟の持ち味であるブラックユーモア、クライムサスペンスが詰まった一本になっています。
映画冒頭、「この映画は実話に基づいています」といったテロップから始まりますが、これは全くのデタラメでモチーフになったと言われる実際の事件はあるのですが、完全なフィクションとなっています。
「この映画はデタラメですよ」といったメッセージがところどころ映画内に登場するのですが、それは記事後半に解説します。
映画は二人組の男と切羽詰まった一人の男がレストランで会話するシーンから始まります。
切羽詰まった男が堅気には見えない二人組の男に何か依頼しているようです。
少ないセリフと、俯瞰した情景描写
物語が進むにつれて、借金を理由にチンピラ二人に偽の誘拐を行い身代金で借金を返そうと計画していることが徐々にわかります。
この、徐々に分かってくるがこの映画の肝で、説明ではない単純な会話と情景描写だけでストーリーが進んでいくので、鑑賞者は状況把握に想像を膨らませます。
この、仕組みがとても秀逸で面白いのです。
この映画が評論家や専門家に高く評価される理由はそこにあると思います。
評価される理由
説明ばかりで何も考えさせない映画はただ映像を観て流れを追っているだけであまり面白くはありません。
本作は「何が起きているのだろうか?」「この人物は一体どんな人物なんだろうか?」と鑑賞者に理解と想像を膨らませさせます。
この想像がどんどんと作品の世界に鑑賞者を没入させてスクリーンから目を離せなくさせます。
それが本作の評価される理由であり、本作の面白さだと思います。
上下関係が分からないチンピラ二人や義父のカーディーラーで働いている借金苦の男、そして臨月を迎えた警察署長の女性、それぞれ3組の目的や人間性が会話や行動から徐々に分かってくるのがとてもいいです。
なので、ぜひキャラクターたちの行動や言動に注目しながら鑑賞してみてください。
役者の演技に注目
登場人物の何気ない会話や行動でストーリーが進んでいくので、役者たちの演技がとても重要になってきます。
チンピラ二人組を演じたスティーヴ・ブシェミとピーター・ストーメアの掛け合いも面白いですし、主人公で警察署長役のフランシス・マクドーマンドの場慣れした感じは酸いも甘いも経験した熟練感が伝わってきます。
カーディーラーの営業マン演じるウィリアム・H・メイシーの冴えない感じやうだつの上がらない感じがよく出ていました。
ジェリーがクレームで値引きを迫る客に対して、対応を上司に”相談するふり”がとてもリアルで営業マンあるあるが垣間見えたのも個人的にツボでした。
総評
コーエン兄弟の初期を代表する一作。会話劇から織りなされるストーリーは単純ながらも、個性的なキャラクターたちそれぞれの立場から描かれているためとても見ごたえがある。
映画のラストも後味がよく、個人的に好きな終わり方。
ブラックユーモアが苦手な方には受け入れられないかもしれないが、大丈夫な方は是非観てほしい。
上映時間も98分と比較的短く気軽に観れるのでおすすすめです。
ファーゴ 解説考察
ここからは「ファーゴ」をより深く楽しむために作品を深堀していきます。
ネタバレを含みますので未見の方は本編を鑑賞してからお読みいただくことをおすすめします。
ラスト結末は?
身代金100万ドルを受け取ったカールは独り占めしようと約束していた8万ドルだけ抜き取り、92万ドル入ったブリーフケースを雪原に埋めます。ですが、逃走に使う車をどちらが手にするか相棒のゲアと口論になり、カールはゲアに殺害されます。
カールの死体処理中のゲアをマージが発見し、ゲアの足を撃ち逮捕。逃亡するジェリーも逮捕されます。
ゲアを移送中、マージは問いかけます。
「わずかなお金のためになぜ人を殺したのか?」
「人生にはお金より大事なことがある」と
シーンは変わりマージ夫妻の寝室。
絵描きである夫ノームの絵が3セント切手の絵柄に採用されたとこを報告します。たかが3セント切手だと言い切るノームに対してマージは自分のことに喜びます。
「私たちって幸せじゃない?」
2か月後に出産を迎えた夫婦はお金では買えない幸せをかみしめるのでした。
ファーゴとは
タイトルのファーゴとはアメリカはミネソタ州にある地名で、ジェリーとカールたちが話をしていた場所です。
ファーゴが登場するのは初めのそのシーンだけで、ほぼミネアポリスとブレナードでストーリーが展開します。
ほんのわずかしか登場しないファーゴがタイトルになった理由は、「ブレナードよりファーゴの方が面白そうだから」という単純な理由で決められたそうです。
モチーフになった実際の事件
物語はフィクションでありながらも、モデルになった事件が二つ存在します。
一つ目は、1962年セントポールの弁護士が妻を殺害するために殺し屋を雇った事件。
二つ目は、1972年に起きたアメリカ最大の身代金誘拐事件で、裕福な銀行家の妻が誘拐された事件です。
犯人は100万ドルの身代金を要求しました。
都市伝説 映画を信じた日本人女性
カールが埋めた92万ドル入ったブリーフケースが実際に埋まっていると信じた日本人女性が、トレジャーハンティングにファーゴに訪れたが、遭難し凍死して発見されたという都市伝説があります。
ですが、真相は女性の自殺で遺書などから仕事や恋愛に悩んでいたことがのちに分かったそうです。また日本人女性の英語が伝わらずファーゴに来た理由を勘違いしてしまった為にこのようなデマが広がったみたいです。
ナンバープレートJ3L2404のジョークの意味
マージが捜査中にナンバープレートのジョークを言います。
犯人の車のナンバーが「DLR」でディーラーからの盗難車じゃないのか推理するシーンで、
金がなく自分名前をナンバーできない男が、名前をJ3L2404に変えたというジョーク。
数字などに意味があるかは調べても変わりませんでしたが、
単純にランダムな英数字に改名したという意味だと思います。
日本で言うなら名前を「世田谷300あ2404」に変えたみたいなニュアンスでしょうか。
そもそもデタラメである本作を暗示したようなジョークと言えます。
巨大なチェックシャツの男の像 ポールバニアン

映画内にたびたび登場する巨大な赤いチェックシャツをジーパンにインしたおっさんの像は「ポールバニアン」と呼ばれ、アメリカのおとぎ話に登場する巨人で怪力無双の木こりです。
アメリカの西部に伝わる話で称して「トール・テール(ほら話)」と呼ばれています。
こちらも本作がデタラメであることを暗示しているようですね。
マイク・ヤナギタの無意味なシーン
唐突に登場するマージの友人のマイク・ヤナギタのシーンは映画史上最も無意味なシーンの一つに数えられているそうですが、実は重要なシーンでもあります。
このヤナギタの振る舞いはミネソタナイスと呼ばれます。
ミネソタ州とウィスコンシン州の人々に見られる文化的固定観念で、礼儀正しく控えめな振舞の裏には争いを避け偽善的である事への自己避難を意味する。
事実、この映画の登場人物はみなミネソタ訛りでセリフをしゃべっています。
ディテールにこだわった演出であり、主人公マージという人間がどういう人間なのかを間接的に表現したシーンでもありました。
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