今回の映画は原田眞人監督、岡田准一主演の「ヘルドックス」です。
岡田准一演じる元警察官の兼高が関東最大のヤクザ組織に潜入しミッションを遂行するという極秘潜入モノの本作なのですが、
極秘潜入モノといえば「インファナル・アフェア」を思い浮かべますが、本作はただの潜入モノでは終わらず、原田監督節炸裂でエンターテインメントでありながら映画好きをも唸らせる演出の深さに恐れ入りました。
今回の記事では「ヘルドックス」の感想や見どころ、作品をより深く楽しむための深堀解説考察をしていきたいと思います。
ぜひ最後までお読みください。
ヘルドッグス(2022年)
2022年製作/138分/PG12/日本
配給:東映、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
あらすじ
愛する人が殺される事件を止められなかったことから闇に落ち、復讐のみに生きてきた元警官・兼高昭吾。その獰猛さから警察組織に目をつけられた兼高は、関東最大のヤクザ「東鞘会(とうしょうかい)」への潜入という危険なミッションを強要される。兼高の任務は、組織の若きトップ・十朱が持つ秘密ファイルを奪取すること。警察はデータ分析により、兼高との相性が98%という東鞘会のサイコパスなヤクザ・室岡秀喜に白羽の矢を立て、兼高と室岡が組織内でバディとなるよう仕向ける。かくしてコンビを組むことになった2人は、猛スピードで組織を上り詰めていく。
スタッフ・キャスト
監督:原田眞人
原作:深町秋生
脚本:原田眞人
撮影:柴主高秀
美術:福澤勝広
格闘デザイン:岡田准一
出演:岡田准一
坂口健太郎
松岡茉優
MIYAVI
北村一輝
大竹しのぶ
金田哲
ヘルドッグス レビュー
原田監督といえば日本を代表する映画監督の一人で最近では1~2年に一本映画を撮っています。2021年には岡田准一主演で「燃えよ剣」、2018年には木村拓哉主演で「検察側の罪人」など73歳(2023年現在)となった今も精力的に活躍する監督です。
数多くある原田監督作品の中でもお気に入りは「さらば愛しき人よ」です。
佐藤浩市の「チャカとだんびらどっちが強いと思う?」のシーンが印象的でしたが、
本作もかなりのクセ強キャラクターやセリフが多く登場します。
しかし、それが破綻せずに映画内でのリアリティとなってどんどんと物語に引っ込まれていく造りは流石原田監督です。
役者陣がみな個性的
10年前であればジャニーズが主演と聞くと、アイドルが演技できるの?と偏見を持ってしまっていましたが、「ラーゲリより愛を込めて」の二宮和也はじめ、本作主演の岡田准一が最高に渋くカッコよかったですね。
室岡役を演じた坂口健太郎も良かったですね。死刑囚の息子でサイコパスというイメージとかけ離れた役でしたが、子供っぽさが残った残虐性が垣間見れてハマっていました。
他にも主役の脇を固める出月の上司役の酒向芳やMIYAVI、はんにゃ金田、オペラを歌うヤクザ吉原光夫など、他にも個性的な面々が多く魅力的な役者陣の演技が観れるのもこの映画の見どころです。
アクションは邦画内でもトップクラス
オーバーではなく計算されたようなアクションがスタイリッシュでカッコよかったですね。
肉弾戦からガンアクションまでアクションの種類も豊富なのが観ていて飽きませんでした。
岡田准一は他のボディーガードと並ぶと小柄なのですが筋肉質な肉体と切れのある動きが兼高という男の存在感を大きく見せており、岡田准一のはまり役と言っていいのではないでしょうか?
ヘルドックス2が観れたら嬉しいですね。
暴力描写はそれほどで女性の方も安心
ヤクザものの映画というとそれだけで嫌厭してしまう方もいるかと思いますが、ヘルドックスの暴力描写はそこまでひどくなくPG12指定なので体制のない方も楽しめると思います。
総評
とにかく上映時間を感じさせないテンポのいいストーリー展開に引き込まれ、最後まで楽しむことができました。
それぞれキャラクターの立った役者陣の演技も見どころで役者が本業ではないMIYAVIやはんにゃ金田も凄く良かったですね。
暴対法以降のヤクザ映画は「ヤクザと家族」や「すばらしき世界」など生きづらさを描いたものが多い印象ですが、「ヘルドックス」はヤクザ映画としてもアクション映画としても高いエンターテインメント性を誇っています。
原田眞人の作家性も垣間見え、原田監督に苦手意識がある方もぜひ見てほしい一作でした。
ヘルドッグス解説考察
ここからは「ヘルドックス」を解説考察し作品を深堀していきます。
ネタバレも含みますので「ヘルドックス」未見の方は視聴してからお読みいただくことをおススメします。
アリチアの森とは

静かなる鏡のごとき湖が眠れるアリチアの森
その薄暗き木陰で
森を治むる祭司
殺さんと企てる者を殺し
いずれみずからも殺されん
兼高と十朱がつぶやいていた詩は「金枝篇(きんしへん)」と呼ばれるイギリスの社会人類学者ジェームズ・フレイザーによって著された未開社会の神話・呪術・信仰に関する集成的研究書の中の一文です。
アリチアの森の祭司になれるものは一人だけで、祭司を殺した者が新たな祭司になる事ができる。
しかし新たに祭司になったものは、祭司の座を狙うものに狙われ続ける。
本作のテーマとなる重要な一節ですね。
映画冒頭から最後の復讐シーンにつながる
ちなみに金枝篇の英語タイトルは「The Golden Bough」で十朱が儀式を行っていた廃ホテルの名前も「The Golden Bough」でした。
アラビアのロマンスかワイルドバンチ
「小津か黒澤」、「ピカソとゴッホ」、「火星と木星」、「アラビアのロマンスかワイルドバンチ」と室岡が兼高に対してどっちが好きかを聞くシーンがあります。
シネフィルでもある原田監督らしいセリフで、兼高は「アラビアのロマンス」と即答します。
アラブの独立に向けてイギリスが送り込んだロレンスに自分を重ねているのだと思います。
ロレンスはイギリスの軍人として任務を遂行する半面、物語が進むにつれてロレンスはアラブの独立の為なのか母国イギリスの為に動くのか葛藤します。
兼高自身、家族仲間を大切にするヤクザ組織に気持ちが動いていることを表しているように思います。
兼高の心情を一言で表した素晴らしいセリフですね。
副題のIN THE HOUSE OF BAMBOO
ヘルドックスの副題に「IN THE HOUSE OF BAMBOO」と付けられています。
これはサミュエル・フラー監督の「東京暗黒街・竹の家」から引用です。
ホテルThe Golden Bough内の和食店の店名も「HOUSE OF BAMBOO」でしたね。
この映画も潜入捜査ものですし、原田監督はサミュエル・フラーを師匠と慕っており、そういった背景が映画に引用されています。
十朱が闇に落ちた理由
十朱自身も警察が送り込んだアンダーカバーでした。
ですが、十朱は警察を裏切り闇社会にのめり込んでいきます。
なぜ十朱は闇落ちしたのでしょうか?
その原因を示すような十朱のセリフがありました。
少女を猥褻目的で誘拐して惨殺した事件で、計画性がないから死刑とまでは言えないという判決に十朱は憤りを示します。
「裁判員裁判の死刑判決を最高裁がひっくり返したのは10件目だよ」
「俺は死刑がやむをえないとまでは言えないと言う裁判官をさばきたくなる」
国家権力の不当性に疑問や疑念を抱くようになったから十朱は警察を裏切ったのだと思います。
次のシーンでも水源を買い占める中国マフィアに灸を据えるシーンがあります。
十朱なりの正義を実行していることがよくわかります。
先代の計画である、極道の隠居所を作る事業を引き継ごうと考えているあたりも十朱の理念がうかがえます。
真っ白のハマーに乗っているというのは十朱の純粋さを感じますね。
原作は深町秋生の小説
原作は深町秋生の小説「ヘルドッグス 地獄の犬たち」です。
原作からストーリーが改変されており、「アラビアのロマンスかワイルドバンチ」などのセリフはもちろん映画オリジナルです。
さらに、ボスの愛人でアンダーカバーの吉佐恵美裏と室岡の幼馴染、勝所杏南は映画オリジナルキャラクターです。
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