映画「漂流団地」レビュー解説考察 のっぽくんは何者?伝えたかった事は?

今回はアニメ作品の映画「雨を告げる漂流団地」です。
ペンギンハイウェイ(2018年)で長編デビューした石田祐康が監督を務め、自身脚本のオリジナル長編は本作が初めてとなります。
団地が海上を漂流するという独特の設定でミステリアスな雰囲気も楽しめました。
そんな本作は「のっぽくん」という謎のキャラクターがいるのですが、そののっぽくんの正体やこの映画が伝えたかったこと考察解説していきたいと思います。

雨を告げる漂流団地(2022年)

2022年製作/120分/G/日本
配給:ツインエンジン、ギグリーボックス

あらすじ

姉弟のように育った幼なじみの航祐と夏芽は小学6年生になり、近頃は航祐の祖父・安次が亡くなったことをきっかけに関係がギクシャクしていた。夏休みのある日、航祐はクラスメイトとともに取り壊しの進む「おばけ団地」に忍び込む。その団地はかつて航祐と夏芽が育った、思い出の家だった。航祐はそこで思いがけず夏芽と遭遇し、のっぽという名の謎の少年の存在について聞かされる。すると突然、不思議な現象が起こり、気が付くと周囲は一面の大海原になっていた。海を漂流する団地の中で、航祐たちは力を合わせてサバイバル生活を送ることになるが……。

雨を告げる漂流団地 : 作品情報 – 映画.com

スタッフ・キャスト

監督:石田祐康
脚本:森ハヤシ
   石田祐康
   坂本美南香
出演:田村睦心
   瀬戸麻沙美
   村瀬歩
   山下大輝
   小林由美子
   水瀬いのり
   花澤香菜

雨を告げる漂流団地 ネタバレ考察解説

のっぽくんの正体

お化け団地に住み着く謎の少年のっぽ君とは一体何者だったのでしょうか?

のっぽ君の正体は、団地を具現化した精霊のような存在でした。

すべての建物には魂のような霊的な存在が宿っており、そこに住んだり、利用したりする人の意識を感じ取っています。
安じいとの思い出が詰まった団地を離れたくないという夏芽の思いが、取り壊され存在が消えようとしていた団地の精霊を具現化させ異世界に飛ばされてしまったのかもしれません。
映画内で「夏芽たちを異世界に連れてきてしまったのは自分のせいだ」とのっぽくんが語るシーンがあります。

以前にも夏芽は異世界に移動したことがあると言っていました。
たくさんの思い出が詰まった団地(のっぽくん)が消えたくないという思い夏芽の思い一致したときに異世界の建物たちの世界に移動してしまうのかもしれませんね。

建物の精霊が子供な理由

お化け団地ののっぽ君観覧車の女の子、ラストのっぽ君を手招きしていたメガネの男の子
建物を具現化したような彼らは皆、子供の姿をしていました。
おそらく彼らは子供にしか見ることができない存在だからではないでしょうか?
もともと彼らには姿や形はなく、存在を感じ取ることができる子供の前で初めて具現化されるのかもしれません。
スイミングスクールやデパートで物音がしていたのはきっとのっぽ君のような存在がいて、その子が出した音だと思われます。

最後どうなった?

映画のラスト、夏芽たちの町だと思っていた遠くの陸の影は建物たちのあの世だという事が分かります。
そこにはのっぽくんのような子供が存在しており、のっぽくんは自然と自分が行かなくてはいけない場所で夏芽たちがいる場所ではないと悟ります。
すべてを悟ったのっぽ君は夏芽たちを元の世界に戻れるように青色の光を放ちます。
無事、異世界の漂流団地から生き延びることができた夏芽たちは、以前より成長したようでした。

伝えたい事

一体この映画を通して監督は何を伝えたかったのでしょうか?

この映画にはいくつかのテーマがあります。

  • 別れを克服する事の大切さ
  • 思いを伝えるという事の大切さ
  • すべて物には神が宿っているという事

以上のようなことを伝えたかったのだと思いました。

夏芽は思い出の詰まった団地や故人を忘れたくないという思いが強く、前に進めずにいました。
ですが、成長するという事はつらい事や悲しいことを乗り越えていかなくてはいけません。
古い団地が取り壊されるように物事にはいつか終わりが来るものです。その場に留まるのではなく思い出として持ちながら前に進んでいかなくてはいけないという事です。

また、夏芽たちは自分の気持ちを素直に伝える事が出来ずにいました。
お互い本当の気持ちを伝えられずにいた夏芽と航祐。
航祐に告白できずにいる令依菜。
過去に戻ることはできないし、今しかないこの瞬間に気持ちを伝えないと後悔することになるかもしれません。
夏芽は自分のせいで航祐が安じいの死に目に会えなかったと思っているし、
航祐は夏芽に謝ることが出来ずにいました。そのためお互い溝が出来てしまっていました。
ラストお互いの気持ちを伝えることが出来て本当に良かったと思います。

すべて物には神が宿っているという事についてはとても日本人的な宗教観の教えだと思います。
八百万の神という言葉の通り、日本人は米粒一つにも神が宿っていると教えられますしそう信じて物を大切に扱うように子供のころに教えられます。
万物に対して感謝や愛情をもって接するという素晴らしい宗教観だと思います。
こういった考えを分かりやすく団地の精霊という形で表現しています。

モデルとなった団地は?

東京都多摩地区にあった「ひばりが丘団地」がモデルとなりました。
高度経済成長期を代表する団地で、マンモス団地と呼ばれるほど大きな団地でした。
監督の石田祐康自身団地出身で団地という舞台にこだわっていたそうで、製作時は実際に団地に移住していたそうです。

雨を告げる漂流団地 レビュー感想

漂流といえばまず思い出すのは楳図かずおの「漂流教室」を思い出すのですが、本作は「漂流教室」のようなホラーテイストではなくあくまで少年少女のひと夏の冒険ファンタジーものになっています。
そして前項目で述べた通り、少年少女の成長の物語でぜひ親子で見てほしい一作だと思います。
アニメという事で子供にも親しみやすいビジュアルですし、大人も一度は経験したり感じたことのあることを題材としているので懐かしい気分で鑑賞することが出来ます。

のっぽくんという存在もとても面白いと思います。

建物には精霊のような存在が宿っているという考えは、実に日本人的で優しさにあふれているように感じます。
自分も小さいころ親や祖父母から「ご飯粒一つ一つに神様がいるから一粒も残しちゃだめ」そんなふうに教えてもらいました。
そうやって教わった方も多いのではないでしょうか?
建物にも神(のっぽくんのような存在)が宿っており、誰も住まなくなった建物は寂しい思いをしていたり、大切に使われていた建物は感謝していたり様々存在していました。
本来こういったことはお年寄りや両親から学ぶことだと思いますが、そういった信仰心が現在薄れているようにも感じます。本作はそういった日本人的な感性をエンタメで伝えてくれる貴重な作品だと思います。

総評

少年少女たちのサバイバルものというだけでワクワクする内容で、漂流する団地、のっぽくんという存在などミステリアスな世界観も楽しむことが出来ました。
建物が朽ちていくという廃墟の美しさも味わうことができ廃墟マニア団地マニアも必見。
普遍的なテーマでぜひ親子で鑑賞することをおススメしたい一作。

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