今回は映画「ラストエンペラー」です。
中国最後の皇帝愛新覚羅溥儀の生涯を描いた超大作で、世界文化遺産の紫禁城で撮影された映像はとても美しく歴史的価値のある一作です。
また、坂本龍一による楽曲はアカデミー賞の作曲賞を受賞したことでも有名です。
満州国や第二次世界大戦など日本ともつながりの深い溥儀の一生を知る上でも重要な一作です。
今回は「ラストエンペラー」をより深く楽しむための解説考察をしていきます。
溥儀の人物像や、歴史背景、ラストのコオロギの意味など解説考察します。
ラストエンペラー(1988年)
1987年製作/163分/PG12/イタリア・イギリス・中国合作
原題:The Last Emperor
配給:東北新社
あらすじ
溥儀の自伝「わが半生」を原作に、激動の近代史に翻弄された彼の人生を壮大なスケールと色彩豊かな映像美で描き出す。
1950年、ハルピン。ソ連での抑留を解かれ母国へ送還された大勢の中国人戦犯の中に、清朝最後の皇帝・溥儀の姿があった。手首を切って自殺を図った彼は、薄れゆく意識の中、波乱に満ちた自身の半生を思い起こしていく。
ラストエンペラー : 作品情報
スタッフ・キャスト
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
脚本:ベルナルド・ベルトルッチ
マーク・ペプロー
製作:ジェレミー・トーマス
製作総指揮:ジョン・デイリー
音楽:坂本龍一
デイヴィッド・バーン
蘇聡
撮影:ヴィットリオ・ストラーロ
出演:ジョン・ローン
ジョアン・チェン
ピーター・オトゥール
英若誠
坂本龍一
ケイリー=ヒロユキ・タガワ
ラストエンペラー 解説
ここからは映画ラストエンペラーの解説を行っていきます。
人物像や歴史的背景などを知ることによりより深く作品を楽しむことが出来ると思います。
もうすでに鑑賞済みの方ももう一度鑑賞するとまた違った見方ができるかもしれません。
愛新覚羅溥儀その生涯とは
愛新覚羅溥儀(あいしんかくら ふぎ)とは清朝の皇帝かつ中華圏最後の皇帝で、1906年2月7日に出生したのち僅か2歳で皇帝の座につきました。
やがて、清朝は1911年に辛亥革命で倒れ、溥儀は退位させられました。
紫禁城で生活は許されたものの、1924年の北京政変によって退去させられ、そんな溥儀に手を差し伸べたのは日本だけでした。そして溥儀は満州国が立国されるまで天津の日本租界に居を移します。
写真は11歳ごろの溥儀です。

1931年に日本の支援を受けて満州国が建国され、溥儀は満州国皇帝として即位しました。しかし、政治の実権は日本の関東軍が握っている傀儡政治でした。第二次世界大戦後、満州国は崩壊し、溥儀はソ連によって逮捕され、その後は中国共産党によって拘束され、1959年に解放されました。その後は中国で晩年を過ごし、1967年に北京で亡くなりました。

写真の溥儀は満州国皇帝時代のもので、およそ30代と思われます。
こうして簡潔に振り返っただけでも波乱万丈の人生だったことが分かります。
溥儀の性格
溥儀の性格については、諸説ありますが、幼い頃から厳格な教育を受け、皇帝としての役割を強く意識していたとされています。また、彼は学問にも熱心で、史書や文学に詳しかったとされています。
この辺は映画内でもイギリス人の家庭教師レジナルド・ジョンストンとの交流の中でも描かれていましたね。
皇帝としての地位を手放した後は、自己中心的で傲慢な人物としてのイメージが強いです。亡命先の日本でも、自己保身のために日本人や中国人を利用したり、自己顕示欲が強かったりしたとされています。
さらに、溥儀が復位した満州国では、日本の軍事力に依存しなければならず、日本人の圧力に屈して政策を行ったため、中国人からは敵視されることが多かったとされています。
一方で、彼は晩年になって、自分自身の過ちを認める言動を見せたり、中国文化に興味を持ち続けたりしたことから、複雑な人物と評されることもあります。
溥儀を演じた子役は?
青年から老年まで溥儀を演じたのは「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」のジョン・ローンが演じました。
上に掲載した実際の溥儀にそっくりで、厳格な雰囲気を上手く醸し出していました。
幼少期の溥儀を演じたのは以下の子役たちです。
溥儀(3歳) リチャード・ヴゥ
溥儀(8歳) タイジャー・ツゥウ
溥儀(15歳) ウー・タオ
溥儀の成長に合わせて4人もの役者が同じ人物を演じているのはこの映画ぐらいかもしれませんね。
この子役たちのその後はあまり情報がなく、有名作への出演は無さそうでした。
いつの時代が舞台?
溥儀が即位する1908年から溥儀が無くなる1967年が舞台となっています。
歴史の教科書で習った、辛亥革命や第一次世界大戦、第二次世界大戦と激動の時代を描いています。
和暦で言うなら明治41年から昭和42年までで、
映画界で言うなら、1910年生まれの黒澤明、1905年生まれの志村喬と同年代です。
こうやって見ると決して遠い昔の話ではないと感じます。
坂本龍一演じる甘粕という人物
甘粕 正彦(あまかす まさひこ、1891年1月26日 – 1945年8月20日)は、日本の陸軍軍人です。
陸軍憲兵大尉時代にアナキストの大杉栄、伊藤野枝とその甥・橘宗一を殺害し古井戸に遺棄したという甘粕事件で知られており、映画内での口数少なからず異様な雰囲気を醸し出していた甘粕という男の人物像はこのような凶暴性を隠していたという事でしょう。
事件後、短期の服役を経て日本を離れて満洲に渡って関東軍の特務工作を行い、満洲国建設に携わります。
また、満洲映画協会理事長を務め、終戦の最中に現地で服毒自殺した。ちなみに映画内では拳銃自殺でした。
映画内ではダーティーな人物像でしたが、ポツダム宣言の受諾が発表された翌日、ソ連が満州国に迫りくる中、満映の中国人社員に対して今後の満映は中国人社員のものにすべきだとして感謝の言葉と機材を保管するよう述べたと言います。また、社員に全財産や形見を一人一人に配ったというエピソードも残っています。
ラストエンペラーの意味
文字通り最後の皇帝の意味で、主人公である愛新覚羅溥儀のことを指しています。
紫禁城とは

紫禁城は、中国の北京市にある宮殿であり、明・清の皇帝が居住し、政治・行政を行っていた場所です。正式名称は「故宮」で、中国語で「紫禁城」(じきんじょう)と呼ばれます。
紫禁城は、明朝の永楽帝によって建てられ、後に清朝の順治帝によって改築されました。全体の面積は約72万平方メートルあり、宮殿や庭園などが広がっています。
宮殿内部には、神武門、午門、太和殿、中和殿、保和殿など、多数の建物があり、その壮大なスケールや美しい装飾が世界中から注目を集めています。また、宮殿内部には多くの芸術品や宝物が所蔵されており、その中には「紫禁城三大宝」と呼ばれる、黄道帯天球儀、精密測時儀、龍袍などが含まれています。
現在は、紫禁城は世界遺産に登録されており、毎年多くの観光客が訪れています。また、紫禁城は映画やドラマの撮影地としても有名で、映画ラストは観光地と化した紫禁城のシーンで終わりました。
宦官とは
宦官(かんがん)とは、中国において、宮廷内において重要な役割を担った男性官僚です。彼らは、身分の低い出自から選ばれ、王朝の成立期から存在し、宮廷内で権力を握ったこともありました。
映画内で西太后が宦官を男性ではないと言っていましたが、宦官は去勢された罪人や奴隷が朝廷に仕えるようになったのが始まりで、宦官になる男性は去勢しなければいけませんでした。そのため、西太后はこの中に男はいないと言っていたのでした。
ラストの意味は
映画のラスト、観光地と化した紫禁城に溥儀の姿はありました。立ち入り禁止のロープをまたいでかつて自分が座っていた玉座に近づこうとしたときに、守衛の子供に止められます。
「そこに入ってはいけない!」
「私はかつてここに住んでいた」
「私は中国の皇帝だった」
「証拠は?」
溥儀は玉座の後ろから、かつて幼少期にもらったコウロギの壺を取り出し少年に渡します。
少年が振り返ると玉座にいた溥儀の姿は無かったのでした。
壮大な溥儀の人生を締めくくる感動的でどこか寂し気なラストでした。
一般的に、このラストシーンは、愛新覚羅溥儀の心の中での成長や変化を示す象徴的な表現とされています。物語の序盤では、愛新覚羅溥儀は、中国皇帝としての生活を送っていましたが、次第に彼は、自分が本当に何を求めているのかを知り、自らの意思で選んだ道を進むことを決めます。
コウロギが壺から放たれるシーンは溥儀ようやく自分自身の人生取り戻したことを示唆しているのではないでしょうか。自らの死によって解放されたという見方もできます。
生まれによって人生が決められ歴史に翻弄された溥儀にようやく安らぎが訪れたことを予感させる素晴らしいラストシーンでしたね。
ラストエンペラー レビュー 名作と呼ばれる所以
12ヶ月連続名作上映プロジェクトである「12ヶ月のシネマリレー」で上映された「ラストエンペラー」を劇場の大スクリーンと上質な音響設備で鑑賞してまいりました。
惜しくも2023年3月28日に逝去された坂本龍一さんの追悼上映という形になってしまいました。
そして、本作は劇場の大スクリーン観ることをおススメしたいと感じました。
美しい紫禁城や満州族伝統の衣装や文化が横長のシネマスコープサイズいっぱいに広がり、美術や構図の美しさに目を奪われました。
坂本龍一らが作曲した楽曲が情感豊かで、物語の世界観を一層深めている点も見どころの一つで、大スクリーンと整った音響設備で鑑賞するとさらに感動的でした。
綿密に行われた時代考証により中華文化や歴史を美しく描き出しており歴史資料としても価値のある一作となっています。
また、物語の主人公である愛新覚羅溥儀が、幼い頃に皇帝として即位し、その後、政治的な混乱や戦争に巻き込まれ、最終的には平凡な市民として生きることを選ぶ姿勢が、感動的であり、物語の核心を成していると感じました。
劇場で鑑賞できるチャンスなので是非この機会に上映予定のある劇場を探してみてはいかがでしょうか?
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